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原発性滲出性リンパ腫(PEL)

【症例 40代女性・メタボと思ったが…】

数年前に大雪の中、同門会忘年会へ向かっていたところ剖検の連絡が入り、急いで大学に戻った。患者さんは、地方の40 代の主婦で、夏に太ったと思ってダイエットとしてフィットネスを続けたが効果なく、病院へ行くと腹水が著明に溜まっていたとのことだった。
抜いても抜いてもどんどん腹水が溜まり、腹水からは異常細胞が細胞診で検出されたが、悪性とは診断されたものの本態は不明であった(写真1)。
細胞診は、時には組織診断にも勝る精度を発揮する大変重要な技術である。少なくとも悪性リンパ腫か癌かどうかは、免疫染色と組み合わせると、診断は十分できるが、この症例は結論から言うと、悪性リンパ腫だった。極めてまれながら、ケラチンという上皮系マーカー分子が発現していたため、診断がつかなかったのも無理がなかった。
患者に対し、とりあえず形質細胞腫を想定してMP 療法が行われたが効果なく、他の治療はされることなく、5ヶ月後に大学病院へ転院となったが、検査結果が出ないまま4日後に亡くなられたのである。
開腹すると著明な腹水が認められ、腸管・胃・大網・肝臓・脾臓など全体が白色の細かい線維状の物質が沈着しており、腸管表面などは白色のビロード状の変化がみられ(写真2)、今まで経験したことのない所見で、肉眼所見の段階で、腫瘍か、炎症かを決定できなかった。
組織所見も細胞診同様、上皮系マーカー陽性の異常細胞がみられたが、どこにも原発のmass は認めず、診断に苦慮し、最終的には遺伝子解析を行い免疫グロブリンの単一バンドを検出したことから悪性リンパ腫と診断された。どこにも原発巣としての腫瘤がないことから、原発性滲出性リンパ腫(PEL:primary effusion lymphoma)と診断した。

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PELとは

原発性滲出性リンパ腫は、聞き慣れない先生方も多いと思う。単純に言うと、胸水中または腹水中を原発とするリンパ腫のことを指す。悪性リンパ腫は原発部がリンパ節かそれ以外かによって節内、節外に分けられるが、節外発生の場合は原発部の同定に苦慮する場合が多い、時に骨髄原発の悪性リンパ腫も経験するが、剖検症例でも相当確定するのが難しい。まして、胸水や腹原発とは、やっかいな疾患が現れたものである。
HIV ウイルス感染症を背景としてHHV8(8 型ヒトヘルペスウイルス)感染が原因であることが判明している。
HHV8 ウイルスはHIV 感染時のカポジ肉腫の原因でもある。
本症例はHIV もHHV8 も陰性であり、まれな症例として英文紙に報告した。

細胞診アーカイブから遺伝子診断

この症例を経験することで、細胞診の段階で遺伝子検査を行うことが診断の決め手になると考えて、その方法を検討した。すでにパパニコロウ染色されている細胞診の標本のカバーグラスをはずして、狙った細胞だけを、レーザーをあてて、特殊なフィルムにはりつけることで選択的に取り出したところ、細胞が6 個で安定してPCR で検査可能であった(写真3)。
この技術で、悪性リンパ腫を診断する方法を考案しCancer 誌に報告した。もちろん科学捜査やDNA 鑑定などの感度であれば細胞一個で十分だが、現実にはそうもいかない。
このように剖検症例から反省し、同じことを繰り返さないような技術を開発し世に送り出していくことが、アカデミアとしての大学病理学教室の役割の1 つと考えている。

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